TUIと併せて提唱するのが「アンビエントメディア」というコンセプトだ。「こうやってインタビューを受けているときは、会話をすることが大事なフォアグラウンド(最前面)の仕事です。しかし、人間の脳はそれを邪魔しない形で、周辺感覚によってバックグラウンド(背後)にある情報も感知しています。そうした認知の周辺で、情報の気配を伝えることを私たちは考えてきました。自然界で、都市で、宇宙で、サイバースペースで、さまざまな現象が起き、世界は情報にあふれています。しかも、その情報はダイナミックに変化しています。いまそうした情報はどんどんグラウト(コンピューターネットワーク)に集まっているわけですが、アンビエント(環境的)なメディアを使ってそれを建築空間に表出させたいということです」。「太陽風」を自分の研究室の空間で感じたいという思いから、ネットワークを経由させてその気配を伝えるためのアンビエントディスプレイをデザインしたこともある。その際は、情報を風というメタファー(隠喩)に置き換え、「動く彫刻」である風車によって伝えることを試みた。こうしたことは、「光を使うほうがはるかに実現しやすいのは確かです」と語る。「かすかに揺らめいたり、わずかに色が変化したりする光の上に、情報としての意味を重畳する(つまりエンコードする二定の規則によって符号化する)わけです。そうすれば人々は、建築空間にあふれるフォトン(光子)を通じ、必要な情報を摂取できるようになります」。建築空間における光を考える際、石井氏はしばしば「電球(バルブ)」というメタファーを使ってきた。「電球」を全部、コンピューターで計算できるものに記述し直し、それが投じる光の上にいろいろな情報の意味を重畳し、光り方をモジュレート(変調)させる。そういったデザインのアプローチがありうるはずです。あるいは壁面に光を投射し、そのピクセルに新しい意味や新しい命を与えるというのも、ひとつのアプローチです。そうやって建築空間を通し、人々をやさしく包み込むように情報を伝えるのです。そこでは光は、ただ雰囲気を盛り上げるための照明ではなく、これまでの役割レベルを大きく超えた情報のメディアになることができます」。建築空間における光については、いまだにセキュリティ面や、エネルギー消費の削減といった観点による制御にとどまっている。