「シャッターを押してあげましょうか?」その声に振り向くと、背の高い金髪の女性がきれいに微笑んで立っていた。ゼラニウムの花が咲きこぼれる白い回廊で、私は母の写真を撮ろうとしていた。ヴェネツィアの喧騒に満ちたサンマルコ広場から舟で十分ほど行ったところにあるリド島のホテル。木々の緑と花の咲きこぼれる楽園のようなこのリゾートホテルは夏の終りだからか、泊まり客はさほど多くなく、テラスやロビーはひっそりとして、鳥の声だけが聞こえている。あの人だ、とすぐにわかった。きのう見かけて、とても印象に残っていた女性だったからだ。きのう彼女はプールサイドにいた。白と黒の太いストライプのビキニに、同じ縞のリボンを巻いた黒い帽子。黒のエスパドリーユをはき、その長い紐をバレリーナのように足首で結んでいた。日灼けした肌と水着との区別がつかないようなでっぷりとしたマダムたちが、男仕立てのボルサリーノを目深にかぶり、金の輪のイヤリングを揺らしてお喋りしているその横で、この女性のどこかコケティッシュな、ちょっとフランス風の粋さがあるスタイルに、私はすっかり見とれてしまったのである。