自動車教習所に茶室をつくった

2011.05.30

私は現在、父のつくった家に住んでいますが、この家は昭和を代表する作庭家、重森三玲が、庭をはじめ、書院や茶室まで手掛けたものです。なかでも日本庭園は、何人もの庭師が手を入れて、できあがったものです。完成までに七年の歳月がかかりました。私が自動車教習所に茶室をつくったり、樹木を植えたりしたのも、この家を見て育った影響が大きいでしょう。「本物にこだわる」という点でも、父は厳しい人でした。これは「戦前」と「戦後」の違いによるものかもしれません。戦前というのは、本物しかない時代でした。中身が何より重視され、どんなに外見を立派にしても、偽物はすぐに見破られます。父は、そんな時代に育った人です。一方、私は二十三歳のときに終戦を迎え、以後ずっと戦後を生きてきました。戦後は偽物が大手を振ってまかり通る時代で、「中身が粗末なら、包装でごまかせばいい」という発想が当たり前でした。本物しか認めない父からみれば、私のやっていることも、大半は「偽物」と映っていたように思います。それでも私なりに、少しは「本物」に近づきたいと、これまでやってきました。教習コースに樹木を植えたのも、そんな考えがあってのことです。当初、自動車教習場の教習コースは、他の自動車教習所(自動車学校)同様、一本の樹木もなく、舗装路に信号と標識がポツンと立つだけの無味乾燥な空間でした。それでは景観として美しくありません。そこで、少しずつでもいいから緑を増やしていこうと、一本一本、樹木を植えていくことにしたのです。遠く屋久島まで樹木をもらいに行ったこともあります。
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