男性の足元を見て、もし白い革靴だとわかると、日本人なら彼を「遊び人かもしれないぞ」と、用心してしまう。いくら夏の生成りの麻スーツにあわせたものであったとしても、おしゃれであるだけに、金持ちの道楽男にちがいないといった先入観をいだく。無意識のうちに、白い靴をはく男性にでき上がったイメージだが、ある面でこれはあたっているかもしれない。白いパンプスを持っている女性なら経験ずみだろうが、なにしろ白は汚れやすい。歩いていると、たとえ舗装道路でもうっすら土ボコリでくすんでくるし、小さなキズでも目立つ。自宅からハイヤーで赤い絨毯の劇場へ送り迎え……といったお嬢様生活ででもなければ、愛用はできない。男性にとっても同じこと。ラッシュアワーの電車に揺られて出勤というとき、白い靴などはいてはいられない。一日で、いや片道でボロボロになる。つまり白い靴がはけるということは、それだけリスクのない暮らしができるということだ。1930年代に、アメリカでこの白い靴が流行した。コール・ハーンのホワイトバックスだ。ミュージカルスターのフレッド・アステアが愛用してブームとなったが、街なかではくにはまったく不向き。それでも歌手パット・ブーンや俳優アンソニー・ハーキンズなど、愛用者の系譜は華やさに彩られた人々に引き継がれてい白に限らずコール・ハーンの靴は、シカゴの靴メーカーを買い取った男たちが、自分たちの名をつけて新しく目指した靴づくりの精神を曲げることなく、伝統的なスタイルを追究しつづけ、高級感を信条とする。スポーツシューズのナイキ傘下に入ったいまも、それはかわらない。